TAコラージュ療法 - 心のレントゲン| 公認心理師 中野日出美

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私、中野日出美が独自に開発した心理療法の1つである「TA発達段階コラージュ療法」についてご紹介します。

TA発達段階コラージュ療法とは、交流分析(TA)の理論に基づき、発達段階別にコラージュを作成することで、人生脚本の修正と愛着スタイルの改善を図る芸術療法です。

普段は気づけないにもかかわらず、人生を無意識にコントロールしている人生脚本の構造を、視覚的にありのまま映し出すため、本療法は「心のレントゲン」として機能します。

大学院の後期博士課程の在籍中に、このTA発達段階コラージュ療法を研究し、博士号を取得しました。本療法は、愛着の法則に基づいて開発されました。

また、内容がやや専門的ではありますが、私が実際にどのような研究をしているのか、心理職として働いていらっしゃる方には、興味があるかもしれませんので、動画としても概要をまとめました。

ここで紹介する動画は、博士論文の審査において、心理学以外の分野の専門家(芸術学部教授等)に向けて行われたプレゼンテーションを元にしています。専門知識がなくても、コラージュがどのように心の変容を映し出すかが、直感的にご理解いただけるはずです。

なお、この研究のTA発達段階コラージュ療法の名称が少し長いので、この動画では「TAコラージュ療法」と略称で呼ぶことにします。

要旨

本研究の目的は、言葉を媒介とする従来のカウンセリング手法に加え、視覚や切り貼りする体感覚を伴うコラージュ作成とグループシェアリングを併用することにより、クライエントが自らの人生脚本の修正をより行いやすくなることを検証することである。

筆者は、交流分析(略称TA)の理論に基づき、退行催眠により人生脚本の修正を図る心理セラピーを、23年間で累計3,000 件以上行ってきた。交流分析の人生脚本理論では、人間は、人生の早期にどのように生き、どう死んでいくのかを、前意識レベルで決めているため、大人になっても、人間関係などで様々な問題が生じ、思い通りに生きられないとされている。

コラージュ療法は、既存の素材を切り貼りするだけで手軽に作成できるコラージュ作品から、心的イメージを読み解き、心理状態の改善を図る芸術療法の一分野であり、退行催眠よりも侵襲性が低い、適用範囲が広い、治療的退行が起きる利点がある。クライエントが発達の各段階で持っていた自分や他者に対する心的イメージをコラージュの作成により視覚化し、グループシェアリングで言語化すると、自分の人生脚本への客観的な気づきが促されることに着目し、本研究では交流分析の自我状態と人生脚本の理論に基づき、コラージュ作品を分析し、人生脚本の修正を図るための基礎的な研究を行った。

研究方法の流れとしては、健常な成人の被験者(n=31)に対し、筆者が心理カウンセリングを実施した。次に、コラージュ作品の作成前に、心理アセスメント(TEG3とECR-GO)を実施した。

その後、3週間で合計6枚のコラージュ作品を、1週間に2枚ずつ作成した。1~5枚目の各コラージュ作品のテーマは、①生まれてから1歳半まで(作品1)、②1歳半~6歳まで(作品2)、③7~12歳(作品3)、④13~17歳(作品4)、⑤成人後(作品5)、という各発達段階別の自分と自分を取り巻く環境とした。6枚目のテーマは、⑥未来の(人生脚本を書き換えた後の)自分と自分を取り巻く環境(作品6)であった。

コラージュの作成は宿題法(自主作成法)により、被験者の自宅で行われた。2枚のコラージュ作品を作成後、1週間毎に開催されるオンラインでのグループシェアリングに、合計3回参加した。各回の終了前に、被験者は質問紙に記入した。3回目の最後に、心理アセスメント(TEG3とECR-G)を実施した。
なお、被験者は3つのグループに分かれ、各回のグループシェアリングの参加者は約10名、1回3~4時間で行った。

本研究の一連のコラージュ作成の実施前と実施後の心理アセスメントデータの分析結果は次の通りであった。TEG3では、5つの自我状態のうち、④自由な子ども(FC)は有意に増加し、⑤順応した子ども(AC)は有意に減少した。次にECR-GOのデータの分析結果としては、①見捨てられ不安、②親密性の回避のいずれも有意に減少した。また、TEG3とECR-GOとの各下位尺度の相関係数を、実施前と実施後について分析すると、実施前には、成人(A)と見捨てられ不安の間に、有意に負の相関が認められた。また、実施後には、順応した子ども(AC)と見捨てられ不安との間に、有意に正の相関が認められた。

交流分析の再決断派の理論では、人生脚本を修正する再決断は、成人(A)の支持を得て、子ども(C)が行うものとされている。また、交流分析のポジションの理論では、人生脚本が修正されると、自己への価値観と他者への価値観が共に上がり、「私はOKであり、あなたもOKである」のポジションになるとされている1)。ECR-GOの「見捨てられ不安」は「自己への価値観」と、「親密性の回避」は「他者への価値観」と、ともに負の相関があるとされている2)。これらから、本研究でのECR-GOのデータ分析結果は、「私はOKであり、あなたもOKである」のポジションへの変化により、人生脚本が修正に向かったことを示唆する結果となった。

事例研究で、個別のコラージュ作品を見ると、第二度のインパスがある場合には、作品1で肯定的な自己イメージが表現された後、作品2以降にインパスが識別可能な表現でコラージュは作成された。第三度のインパスがある場合には、作品1で違和感や「子ども」(C)の混乱が識別可能な表現でコラージュは作成された。また第二度と第三度のインパスでは、脚本修正のプロセスに違いが見られた。第二度のインパスの場合は作品1で肯定的な自己イメージが表現された後、人生脚本の修正が早く進んだのに対し、第三度のインパスの場合は共生関係があった特殊な事例を除き、作品5で人生脚本の影響で繰り返してきた否定的なパターンが表現された後、作品6で人生脚本の修正を表現するコラージュが作成された。

これらから、交流分析の理論に基づき、コラージュ療法を用いた本研究の手法(『TA発達段階コラージュ療法』)は、人生脚本を修正するために有効であると考えられる。今後の課題としては、本研究の被験者が限定された集団であったため、より偏りの少ない集団に対して検証を重ねること、コラージュ作成時に過去の不快な記憶を思い出し辛くなった場合などに安全を確保するための対応の仕組みや適用外となる他のケースの考察および適用の可否を判断するためのスクリーニングの仕組みの構築が不可欠と考えられる。

第二度、第三度のインパスに対処するには、主に非言語のメッセージで伝えられる禁止令を解除する必要があり、クライエントが自分で気づいて人生脚本を修正するのは難しい。そのようなケースでも、本研究のように発達段階別にコラージュを作成すれば、クライエントも治療者も、インパスが発生した状況を視覚的に把握でき、問題が明確になるため、解決も容易となると考えられる。

TAコラージュ療法の研究で参照した心理療法の大まかな系譜

骨子

Ⅰ.本研究「TAコラージュ療法」の目的
Ⅱ.本研究の背景
Ⅲ.研究方法
Ⅳ.心理アセスメントデータの分析結果
Ⅴ.事例研究
Ⅵ.総合考察

TAコラージュ療法とは(1)

Ⅰ.本研究「TAコラージュ療法」の目的
Ⅱ.本研究の背景

TAコラージュ療法とは(2)

Ⅲ.研究方法
Ⅳ.心理アセスメントデータの分析結果

TAコラージュ療法とは(3)

Ⅴ.事例研究
Ⅵ.総合考察

Fさんの事例研究

動画の中でも説明しているFさんの事例研究は、TAコラージュ療法の特徴がとてもわかりやすいので、コラージュ作品とともに再掲します。

Ⅴ-6. Fさん 20代

(以下、「事例F」と表記する)

Ⅴ-6-1.プロフィール

Fさんは20代の女性で、職業は会社員である。

Ⅴ-6-2.生育歴

母親が医療従事者で共働きだったために、出生時は、母方の実家で、曽祖母、祖父母と暮らしていた。祖父はとても人徳があり、祖母は面倒見がよく、たいへん明るい人だったという。

幼稚園時代に父方の実家に移り、父方の祖父母と同居し、4歳の時に弟が生まれた。父方の祖母と母親は、たいへん折り合いが悪く、いつもいさかいが絶えなかった。そのため、両親の仲もよいとはいえなかったが、忙しい母親に代わって、普段彼女の面倒を見ていたのは父方の祖母であった。その祖母はたいへん心配症な人で、「あれもしちゃいけない」、「これもしちゃいけない」、「こうなったら、こんなひどいことになる、こんな恐ろしいことになる」と、いつもFさんに話していた。Fさんは、5歳くらいの頃から、吃音症を発症して、上手に言葉を発することができなくなった。祖母は吃音症を治そうと必死になった。父親は何かとFさんの話し方を注意したり、叱りつけたりした。父親の関係も次第に悪くなり、家ではあまり口をきかなくなってしまった。

Fさんは「小学校から「言葉の教室」で話し方を矯正するためのトレーニングを受けだした。学校ではごく親しい友人以外とは話さなかった。吃音症であることにより、周囲からの好奇と憐れみを感じながらの子ども時代であった」と語った。

Ⅴ-6-3.コラージュ作品

1 生まれてから1歳半まで

a. 作品名「あたたかさ」

あたたかさ図Ⅴ-6-1 あたたかさ

b. 作品の説明

この作品は、黄色とオレンジとピンクの折り紙がちぎり絵のように、全体にコラージュされている。Fさんは「黄色は腕白さ、オレンジは元気さ、ピンクは周りからの愛を表している」と説明した。

c. コラージュ作成後の気づき

「1歳半までの自分と自分を取り巻く環境」について気づいたことは何ですか?」という問いに対して、Fさんは「1歳半までの記憶はあまりなく、自分を取り巻く環境はわかりませんが、皆に祝福されていた記憶が、体感的に、イメージ的に残っていたことに気づきました」と答えた。

2 1歳半から6歳まで

a. 作品名「わんぱくさ」

わんぱくさ図Ⅴ-6-2 わんぱくさ

b. 作品の説明

作品の中央に、太陽のような形に切り取られた金色の折り紙が貼られている。その周りを、赤、黄色、ピンク、青、そして金色の切り取った折り紙で、取り囲んでいる。Fさんは「赤は情熱、青は男の子っぽさ、ピンクは愛とか暖かさ、黄色はわんぱくさ、そして金色は元気さ、無邪気さというものを表現している。幼稚園の頃の自分をイメージした。5歳くらいから、吃音症の兆候が出始めたが、まだまだ子供らしく無邪気な自分でいられた」と説明した。

c. コラージュ作成後の気づき

「6歳までの自分と自分を取り巻く環境について気づいたことは何ですか?」という問いに対して、Fさんは「6歳までは元気いっぱいで、自分の殻に閉じこもっているということはなく、制限などない自由なコラージュになりました」と答えた。

3
7歳から12歳まで

a. 作品名「個性の否定」

個性の否定図Ⅴ-6-3 個性の否定

b. 作品の説明

この作品は、中央で左右に2分割されている。左側は白い背景の上にメディチ家礼拝堂の石膏像が貼られ、その周りには、黄色、ピンク、黒の切り取られた折り紙がコラージュされている。右側は、黒の台紙に黄色とピンクの切り取られた折り紙が、家の形にコラージュされている。Fさんは「左側の石膏像の人物が私自身を、その首に貼られた長方形の黒い折り紙は、苦しみとか、息苦しさを表現している。この人物の口元にリアルな写真を貼り、吃音症を表現した」と説明した。これは「すげかえ」表現とよばれるコラージュに特有の表現で、近喰ら(2001)では、「すげかえ」制作児童は自己否定グループに多いことを指摘している。

右側の黒の台紙の上に貼られた家の形をした折り紙は「ピンクが親密さ、黄色は元気さを表している」。背景の黒は「障害者でかわいそうと見られた暗い環境や、その当時から通いだした言葉の教室で、吃音という個性を修正するように強いられた過酷な環境を表現した」という。小学生時代から、吃音を馬鹿にされたり、囃し立てられたり、彼女はあまり親しい人以外とは話さないようになっていた。また父親にも、その吃音を叱られたりして、父親との関係はかなり悪くなっていたという。

c. コラージュ作成後の気づき

「12歳までの自分と自分を取り巻く環境について気づいたことは何ですか?」という問いに対して、Fさんは「小学校に入学してから12歳までの自分は、周りの環境は温かかったのですが、言葉の教室が吃音を否定したような施設だったため、周りの壁ができてしまったことに気づきました」と答えた。

4 13歳から~17歳まで

a. 作品名「監視」

監視

図Ⅴ-6-4 監視

b. 作品の説明

作品の中央の下に、黒い縁取りの人物のイラストがコラージュされている。Fさんは「この黒い額は檻を表している。その檻の中に顔があり、そして、その顔の中央にも、また人がいる。この膝を抱えて座り込んでいる人が、私自身を表している。その両肩にそれぞれ赤と青の丸い切り抜きをコラージュし、赤は怒り、青は悲しみを表している」と説明した。

黒い檻の外側には、Fさんを取り巻く社会、環境があり、折り紙の切り抜きが、散りばめられている。Fさんは「ピンクは善意、黄色は元気さ、黒は失敗を表す。折り紙に混ぜて人間の目をコラージュした。これは社会の中で色々な人に監視され、また偽善的な憐れみを受けたりしたことを表す。その中で吃音があり、話すことで失敗する自分に対する哀れみを感じ、自分の感情を抑えて、できるだけ人と話さないようにしていた当時の自分を表現した」と述べた。

c. コラージュ作成後の気づき

「中学・高校時代の自分と自分を取り巻く環境について気づいたことは何ですか?」という問いに対して、Fさんは「周りとの壁ができたまま思春期を迎え、ますます自分の怒りや悲しみの感情を抑制し、感情を表に出さないようにしていたことに気づきました」と答えた。

5 大人になってから

a. 作品名「火」

火

図Ⅴ-6-5 火

b. 作品の説明

この作品は、画用紙の左側約2/3が黒、そして右側1/3が、白の背景となっている。左側の黒の台紙には、真ん中の四角に涙を流している女の人のイラストが貼られ、その周囲に紫と赤の折り紙が配置されていている。Fさんによれば「このイラストの女性は、自分自身が泣いている表現」であり「自分を取り囲む赤の折り紙は怒り、紫の折り紙は無価値感」である。

一方、右側1/3の白い背景には「黒の折り紙で表されている暗い思いをちりばめ、1本のマッチを擦った小さい灯りで、自分の心に灯った肯定的な光を表現した。一連のコラージュ作成や、事前カウンセリングを通して、自分自身を肯定する様々な思いを見出せた」と語った。

c. コラージュ作成後の気づき

「大人になってからの自分と自分を取り巻く環境について気づいたことは何ですか?」という問いに対して、Fさんは「中高よりは壁は薄くなりましたが、暗いままでした。会社で嫌なことがあると、すぐに自己否定になり、怒りや悲しみを強く感じるようになりました。ただ、自己肯定の光を灯すことにより、暗闇が少しやわらいだような気がしていたことに気づきました」と答えた。

6 人生脚本を書き換えて、より充実した未来

a. 作品名「自由」

自由

図Ⅴ-6-6 自由

b. 作品の説明

この作品の中央には、人の顔のイラストが貼られ、それを取り囲むように、宇宙のくらげ、星、ヤシの木、ロケット、宇宙船、またFさんが大好きなキャラクターであるぐでたまくんが散りばめられている。Fさんは「中央の人の顔のイラストは、人生脚本が変わり始めている自分、組み替えられているパズルのように組み変わっていく自分、動きがある自分を表現し、自分の周りには、楽しいものたちが、とても自由に飛び回っている様を表現した」と説明した。

c. コラージュ作成後の気づき

「人生脚本を書き換えて、より充実した未来の自分と自分を取り巻く環境について気づいたことは何ですか?」という問いに対して、Fさんは「周りの環境もそうですが、内面も表しています。内側から外側もやさしい光や動物などに囲まれたり、穏やかになりたいというのを表しており、そうなりたいと思っていることに気づきました」と答えた。

Ⅴ-6-4.今回のコラージュ作成の影響

「今回のコラージュ作成が、あなたの人生や心、人間関係に何かしらの影響を与えたとしたら、それはどんなところだと思いますか?」という問いに、Fさんは「そのときの状況を、コラージュすることによって、言語ではなく、潜在意識を形に表すので、自分が気づいていないところが見えてくるので、それによって、他人とのかかわりの中で、自分の内面を替え、人間関係を良い方向に向かわせることができると思います」と答えた。

Ⅴ-6-5.心理アセスメントデータの変化

1 TEG3

Fさんのエゴグラムの変化をみると「批判的な親」(CP)は49から35、「養育的な親」(NP)は47から41、「順応した子ども」(AC)は50から45に減少した(図Ⅴ-6-7)。

Fさん TEG3 エゴグラムの変化図Ⅴ-6-7 Fさん エゴグラムの変化

2 ECR-GO

FさんのECR-GOの変化をみると、「見捨てられ不安」は54から48、「親密性の回避」は51から45に減少した(図Ⅴ-6-8)。

Fさん ECR-GOの変化

図Ⅴ-6-8 Fさん ECR-GOの変化

Ⅴ-6-6.考察

1 心理カウンセリングによる脚本分析

幼稚園時代から同居し、Fさんの面倒をみていた父方の祖母が過剰に心配症な人で「あれもしちゃいけない」、「これもしちゃいけない」、「こうなったら、こんなひどいことになる、こんな恐ろしいことになる」など「~をするな」という禁止令が、強く彼女にメッセージとして与えられていた。また、祖母と母との不仲、両親の不仲は「信頼するな」、吃音症を父にきつく叱られたことは「近づくな」「重要であるな」「成功するな」などの禁止令を与えた。

吃音症であることで周囲から憐れみや好奇の目を向けられたことから自身を守ろうとした体験は「強くあれ」、父や祖母からちゃんと話すようにと叱られたことは「完全であれ」というドライバーとなった。父親らしい愛情も示さずしつけもせず、祖母と母のいさかいにも無関心であった父親の生き方は「他者と深く関わらずに生きて行くべきだ」というモデリングとなった。母親の愛情と責任感はそのままFさんの中に取り込まれ、優しさや温かさ、穏やかさとなった。また、母親の祖母や父との確執の中でも、じっと耐えるしかない、というふるまいは、Fさんの忍耐とあきらめのモデリングとなった。

2 コラージュ作成についての考察

作品1「あたたかさ」(図Ⅴ-6-1)で、Fさんは「皆に祝福されていた記憶が、体感的に、イメージ的に残っていたことに気づきました」と答え、作品名「あたたかさ」は再体験した体感を言語化したものと考えられ、コラージュ作成により「自由な子ども」(FC)の自我状態を再体験したと推測される。それまで気づきの外にあり忘れていた「皆に祝福されていた記憶」を思い出したことをきっかけに、その後に受け取った「~するな」「信頼するな」、「近づくな」、「重要であるな」、「成功するな」の禁止令に従う必要はないという許可を自分に出したと考えられる。

作品2「わんぱくさ」(図Ⅴ-6-2)で、Fさんは「6歳までは元気いっぱいで、自分の殻に閉じこもっているということはなく、制限などない自由なコラージュになりました」と答え、コラージュ作成により「自由な子ども」(FC)の自我状態を再体験し、前述の禁止令に従う必要がないという許可を引き続き自分に出したと推測される。

作品3「個性の否定」(図Ⅴ-6-3)は、中央で左右に分割され、Fさんは「左側の石膏像の人物が私自身を、その首に貼られた長方形の黒い折り紙は、苦しみとか、息苦しさを表現している。この人物の口元にリアルな写真を貼り、吃音症を表現した」。右側の背景の黒は「障害者でかわいそうと見られた暗い環境や、その当時から通いだした言葉の教室で、吃音という個性を修正するように強いられた過酷な環境を表現した」と説明し、コラージュ作成により、当時の「順応した子ども」(AC)の自我状態を再体験し、周囲の人たちとの関係に葛藤を感じたと推測される。生育歴や脚本分析で述べたように「~するな」「信頼するな」、「近づくな」、「重要であるな」、「成功するな」の禁止令をこの時期に受け取り、人生脚本の形成が始まったと考えられる。

作品4「監視」(図Ⅴ-6-4)で、Fさんは檻を表す黒い枠の中の「膝を抱えて座り込んでいる人が、私自身を表している」、「話すことで失敗する自分に対する哀れみを感じ、自分の感情を抑えて、できるだけ人と話さないようにしていた当時の自分を表現した」と説明し、コラージュ作成により、作品3「個性の否定」(図Ⅴ-6-3)よりもさらに強く自分の感情を抑えている自我状態を再体験し、「周りとの壁ができたまま思春期を迎え、ますます自分の怒りや悲しみの感情を抑制し、感情を表に出さないようにしていたことに気づきました」と答えた。これは人生脚本が強化・正当化されたプロセスを示すと考えられる。

作品5「火」(図Ⅴ-6-5)は、背景の白と黒の位置が作品3「個性の否定」(図Ⅴ-6-3)と比較すると左右が入れ替わっており、作品3「個性の否定」(図Ⅴ-6-3)から形成が始まった人生脚本が終結に向かっていることへの暗示的な表現と考えられる。左側の黒の背景に貼られた「イラストの女性は、自分自身が泣いている表現」であり、右側の白い背景に貼られた「1本のマッチを擦った小さい灯りで、自分の心に灯った肯定的な光を表現した」と説明し、コラージュ作成後の気づきとして「自己肯定の光を灯すことにより、暗闇が少しやわらいだような気がしていたことに気づきました」と答え、左側で泣いていた時の自我状態とは異なる自我状態に変化し、人生脚本の修正が始まったことを示唆すると思われる。すでに述べたように作品1「あたたかさ」((図Ⅴ-6-1)の作成時に、禁止令に対する許可を自分で出し始めており、作品5を作成する前から人生脚本を修正する準備が整っているために、作品6で「人生脚本を書き換えて、より充実した未来」のコラージュを作成する前段階の作品5の「大人になってから」のコラージュ作成で直ちに脚本修正が始まったと推測される。

Fさんの作品1~5で特徴的なのは、何種類からの色の色紙をちぎって、台紙に張り付け、例えば、作品1「あたたかさ」(図Ⅴ-6-1)であれば、黄色はわんぱくさ、オレンジは元気さなどと、何種類かの特定の色を、感情や感覚を伴う特定の状態に結び付けて表現していることである。その表現も豊かであるとはいえず、未分化でたどたどしい表現にとどまっていた。しかし、作品5「火」の右側1/3では、Fさんの心に小さな肯定的な光が灯った表現がなされ、その後の作品6「自由」(図Ⅴ-6-6)では、それまでの作品とは変わって、クラゲやロケット、貝、魚、ヤシの木など具体的なものが、自由にコラージュされ、「中央の人の顔のイラストは、人生脚本が変わり始めている自分、組み替えられているパズルのように組み変わっていく自分、動きがある自分を表現」したと説明し、作品名「自由」の通り「自由な子ども」(FC)の自我状態が表現されていると考えられる。

3 心理アセスメントデータの変化についての考察

TEG3の変化では、作品1「あたたかさ」(図Ⅴ-6-1)で「~するな」「信頼するな」、「近づくな」、「重要であるな」、「成功するな」の禁止令に従う必要はないという許可を自分に出したため、作品3「個性の否定」の右半分の黒い背景で表現された、言葉の教室で吃音を否定されたことから取り込まれたネガティブな「批判的な親」(CP)と、吃音に対する偽善的な憐みというネガティブな「養育的な親」(NP)が減少したと考えられる。

作品5「火」(図Ⅴ-6-5)の右側1/3で表現された心に灯った肯定的な光によって「順応した子ども」(AC)が減少したと考えられる。また作品6「自由」(図Ⅴ-6-6)では、作品名の通りに、人生脚本を修正して、自由で楽しく動き回る様子が表現されており、「自由な子ども」(FC)が増加したと考えられる。

ECR-GOの変化では、作品5「火」(図Ⅴ-6-5)の右側1/3の部分と作品6「自由」(図Ⅴ-6-6)で表現されたように、脚本を修正する再決断により、自己肯定感が高まったことから「見捨てられ不安」は減少したと考えらえる。また、作品6「自由」に表現されたように、自分と自分を取り巻く環境も自由で楽しい肯定的なものに変化したことで、「親密性の回避」も減少したと考えらえる。

4 まとめ

Fさんの作品1「あたたかさ」(図Ⅴ-6-1)には、「子ども」(C)の混乱や葛藤が見られず、作品3「個性の否定」(図Ⅴ-6-3)では複数の禁止令を受け取ったことが示され、作品4「監視」(図Ⅴ-6-4)と作品5「火」(図Ⅴ-6-5)の左側2/3では人生脚本の強化と正当化が進んだことが表現されていることから、第二度のインパスがあったと考えられる。Cさん、Dさん、Eさんと同様に、作品1の作成により気づきの外にあった1歳半までの間に感じていた「自由な子ども」(FC)の自我状態を再体験することにより、7歳以降に受け取った禁止令の解除が行われた。TEG3とECR-GOの変化は、人生脚本の修正によると推察されるものであった。

これらから、事例Fでは、出生後から一連のコラージュを作成する手法は、脚本修正に一定の効果があったと考えられる。またFさんのように、吃音症など発話に何らかの制約がある人にとって、TA発達段階コラージュ療法は、作品作成の過程で言葉を使わなくてもよいため、人生脚本の修正に取り組みやすい手法であると考えられる。

本研究の心理アセスメントデータの分析結果(概要)

なお、本研究では、Fさんだけでなく、研究に参加したグループ全体(n=31)でも、3週間でこのような劇的な改善が実証されています。

統計学的に99.99%以上の確実性で、参加者の心の状態に劇的な改善が見られたのです。

具体的には、極めて高い有意差(p<0.0001)をもって、参加者の愛着スタイルに顕著な改善が見られることが実証されました。

TEG3 T得点中央値の変化

詳細な測定結果では、TEG3(東大式エゴグラム)による心理状態の測定において

  • 「自由な子ども」(素直な感情表現や創造性)が有意に増加
  • 「順応した子ども」(過度な我慢や他人に合わせる傾向)が有意に減少

ECR-GO 中央値の変化

さらに、ECR-GO(愛着スタイル尺度)においては

  • 「見捨てられ不安」(大切な人に見捨てられることへの強い恐怖)
  • 「親密性の回避」(人と深い関係を築くことへの恐れ)

この両方が統計的に明確な改善を示したのです。3週間という短い期間の改善としては、高い効果と言えるでしょう。

この研究により、顕在意識と潜在意識の両方に働きかけることで、人生脚本の修正が効果的に行われるとともに、長年の愛着の問題も根本から解決できることが科学的に実証されました。

(出所)拙稿「コラージュ技法により視覚化された人生脚本の分析と修正についての研究 ― コラージュ療法及び交流分析からの考察―」(博士学位論文)

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