
「愛着障害について学び、心理カウンセリングも受け、ありとあらゆることを試してきたのに、なぜかいつも同じようなパターンで終わってしまう・・・」
こんな経験はありませんか?
頭では理解できるのに、いざという時に感情が暴走してしまう。
相手を信頼したいと思っているのに、身体がいうことをきかない。
新しい行動パターンを身につけたはずなのに、気がつくと元に戻っている。
多くの「大人の愛着障害」の方が経験するこの現象には、心の仕組みに関する重要な理由があります。それは「顕在意識」と「潜在意識」という、私たちの心の2つの働きが関係しているのです。
この記事では、26年の臨床経験と博士研究の成果をもとに、なぜ「大人の愛着障害」の改善や克服が困難なのかを科学的に解明し、効果的なアプローチへの道筋を示します。
表面的な努力で終わることなく、根本的な改善への理解を深めていきましょう。
心の2つの働き:氷山モデルで理解する意識の構造
私たち人間の心は、大きく分けて、顕在意識(意識)と潜在意識(無意識)という2つの働きがあります。

この2つの意識は、よく氷山に例えられます。
海面から上に見える小さな部分が「顕在意識」、海面下に広がる大きな部分が「潜在意識」です。
一般には、顕在意識は、私たちの心の働きの約10パーセントに過ぎず、残りの約90パーセントの働きは、普段は気づいていない潜在意識であるとも言われています。
顕在意識の特徴と働き
顕在意識は、言語による思考、判断、選択、分析を司っています。つまり、私たちが言葉で考え、気づいている部分です。
具体的には以下のような機能があります。
言語機能
心の中の言葉による思考や、相手との会話における言葉の選択などを行います。「今日は何をしようか」「あの人の言葉はどういう意味だろう」といった、言葉を使った思考プロセスです。
論理的判断
筋道立てた分析や推論を行います。「AだからB、BだからC」という論理的な思考や、メリット・デメリットを比較検討する機能です。
意識的記憶
意図的に思い出せる記憶を管理します。昨日の出来事や学習した知識など、「思い出そう」と意識すれば取り出せる情報です。
意志決定
意識的な選択や決断を行います。「今日はこれをしよう」「この商品を買おう」といった、自分で考えて決める判断です。
潜在意識の特徴と働き
それに対して、潜在意識は非言語的な領域を司っています。
感覚と身体記憶
五感による体験や身体に刻まれた記憶を保存しています。温かさ、冷たさ、痛み、快感などの身体感覚や、「なんとなく嫌な感じ」「安心する雰囲気」といった直感的な感覚です。
感情反応
瞬間的で自動的な感情の動きを制御しています。理由はわからないけれど涙が出る、説明できないけれど不安になる、といった感情の自動反応です。
直感とイメージ
言葉にならない洞察や映像的思考を処理します。「なんとなくこうした方がいい」という直感や、頭に浮かぶイメージやビジョンです。
自動的行動
意識せずに行う習慣的な反応を管理しています。歩き方、表情の変化、相手との距離の取り方など、考えなくても自然に行っている行動パターンです。
行動決定における潜在意識の圧倒的影響力
ここで重要なのは、私たちの行動のほとんどが、潜在意識の働きによって決定されているということです。つまり、言葉で考える前に、身体や感情が反応しているのです。
例えば、初対面の人に会った瞬間に「なんとなく苦手」と感じたり、逆に「この人は信頼できそう」と直感的に思ったりする経験はありませんか?
これは潜在意識が、過去の体験や記憶をもとに瞬時に判断し、感情や身体反応を引き起こしているのです。
しかし、私たちが目覚めて生活をしているほとんどの時間は、顕在意識が優位に働いています。
そのため、潜在意識がどんな影響を与えているかは、普段は気づけません。気づこうとしても、気づけないのです。なぜなら、意識できない形で、文字通り、無意識に、影響を与えているからです。
愛着形成と言語獲得の決定的な時期的ずれ
「大人の愛着障害」の改善や克服が困難な理由を理解するためには、愛着形成と言語獲得の時期的関係を正確に把握する必要があります。
愛着形成の時期的特徴
愛着は主に生後1年半から3歳頃までの期間に形成されると言われています。この時期は、言語能力がまだ十分に発達していない段階です。
言語獲得の一般的なプロセスは以下の通りです:
- 0-12ヶ月: 泣き声、笑顔などの非言語コミュニケーション
- 12-24ヶ月: 単語の理解と発話開始
- 24-36ヶ月: 二語文から複文への発達
- 3-4歳: 複雑な言語表現の獲得
つまり、最も重要な愛着形成期である0-3歳の期間は、言語による思考や表現がまだ十分にできない時期と重複しているのです。
非言語的記憶としての愛着体験
そのため、愛着に関する体験は主に「身体感覚」「感情」「イメージ」として潜在意識に刻まれます。
例えば・・・
- 「お母さんに抱かれて安心した」という体験 → 温かさ、安全感として身体に記憶
- 「泣いても誰も来なくて不安だった」という体験 → 緊張、警戒感として身体に記憶
- 「期待したのに裏切られた」という体験 → 失望、絶望感として感情に記憶
これらの体験は、言葉ではなく感覚として記憶されているため、後から言葉で説明することが極めて困難です。
大人になってから「なぜかわからないけれど不安」「理由はないけれど相手が信頼できない」と感じるのは、この非言語的記憶が影響しているからです。
博士研究で実証された非言語的記憶の存在
私が大学院で行った研究では、コラージュ技法という非言語的なアプローチを用いることで、参加者の多くが驚くような体験をしました。
それまで言語化できなかった生後1年半までの記憶が、視覚的・感覚的な作業を通して蘇ってきたのです。
Cさん(50代女性)の事例「密着」

Cさんは、赤ん坊のころの写真は持っていないという状況でした。しかし、新聞紙をちぎりながらコラージュ作品を制作している間、「泣けて泣けて、仕方がなかった」と報告しています。
作品完成後、Cさんは「母親とのスキンシップは、おんぶに抱っこと充分に与えられていただろうと。また、初孫であったことで、祖母をはじめとする親族からも可愛がられた時期だったのではと、作成を通じて思い至りました」と語りました。
Hさん(40代女性)の事例「繭の中」

一方、Hさんの作品では、中央におくるみに包まれた赤ん坊が表現され、その周りに母親と祖母の手が描かれていました。
しかし、Hさんは「母や祖母の手が赤ん坊からはちょっと離れているのは、母親が産後8週間で仕事に復帰し、祖父母からは得られない、母親の愛情に何か欠乏を感じていた自分を表した」と説明しました。
作品完成後の気づきとして、Hさんは「身体接触も、おそらくたくさんしてもらっているだろうと思うのだが、どうしても、自己イメージは、そのようなものから離れたものになってしまうように思う。主に後々に語られる母からの言語からイメージが作られているのではと感じる」と語りました。
(出所)拙稿『コラージュ技法により視覚化された人生脚本の分析と修正についての研究 ― コラージュ療法及び交流分析からの考察―』(博士学位論文)
これらの事例が示すように、言語化できない乳幼児期の体験は確実に私たちの潜在意識に保存されており、大人になってからの感情反応や行動パターンに深い影響を与え続けているのです。
潜在意識に刻まれた生存戦略
幼少期の愛着体験は、その子どもにとっての「生存戦略」として潜在意識に刻まれます。「この方法で安全を確保できる」「この行動パターンで愛情を得られる」という無意識のプログラムが形成され、大人になってからも自動的に作動し続けるのです。
なぜ言語を重んじるアプローチでは改善が困難なのか
「大人の愛着障害」の改善や克服が困難な理由の1つは、問題が形成された時期の特質を考慮すれば、適切とは考えにくいアプローチ手法が用いられることです。
言語獲得前に形成される問題の特殊性
「大人の愛着障害」が他の心理的問題と大きく異なるのは、言語獲得前に形成されるという点です。つまり、言葉で考える力や表現する力が育つ前に、心の深い部分に刻まれた傷つきなのです。
認知行動療法の優れた効果と適用範囲
認知行動療法は、思考パターンや行動パターンを修正する科学的に効果が実証された優れた手法です。うつ病、不安障害、強迫性障害など、多くの心理的問題に対して高い効果を示しています。
認知行動療法の基本的なアプローチは、「考え方を変えることで感情や行動を変える」というものです。否定的で非現実的な思考パターンを特定し、より現実的で建設的な思考に修正することで、症状の改善を図ります。
しかし、「大人の愛着障害」の場合は特別な配慮が必要です。なぜなら、問題が生じた時点で言語機能がまだ存在していないため、言葉を用いたアプローチでは、その根底にある「言語獲得前に形成された心的イメージ」には到達できないという限界があるからです。
これは手法の優劣の問題ではありません。時系列的な適用可能性の問題なのです。問題が発生した時に認知機能が存在しなかった以上、認知レベルでのアプローチには限界があるのです。
他のアプローチの同様の限界
この限界は、認知行動療法に限ったことではありません。
従来のカウンセリング
言語化できる範囲での整理や洞察は可能ですが、言語獲得前の体験や感情にアクセスするには限界があります。
自己啓発書籍やセミナー
理解と意欲は高まりますが、読書や講義で得た知識では、無意識レベルの自動反応パターンを変えることはできません。
意志力による変化
顕在意識レベルでの努力や決意だけでは、潜在意識に刻まれた強力な生存戦略に勝つことは困難です。
重要な理解
これは決して他の手法を否定するものではありません。ただし、愛着の問題については、その時系列的特殊性を理解した上で、適切なアプローチを選択することが重要なのです。言語レベルでのアプローチと非言語レベルでのアプローチを組み合わせた統合的な取り組みが必要になります。
博士研究で実証された非言語的アプローチの効果
では、言語獲得前に形成された愛着の問題にはどのようにアプローチすればよいのでしょうか。
研究の概要
私は大学院博士課程で、31名の被験者を対象に、「TA発達段階コラージュ療法」という独自の手法を用いた研究を行いました。これは、非言語的なコラージュ技法により、潜在意識レベルの人生脚本を可視化し、修正を図るアプローチです。
この研究の特徴は、言語を使わずに、ハサミで切り、手で貼るという身体的な作業を通して、潜在意識にアクセスするという点にあります。参加者は雑誌や新聞の切り抜きを使って、自分の人生の各段階を表現する作品を制作しました。
驚くべき研究結果
3週間という短期間で、統計学的に99.99%以上の確実性をもって、参加者の愛着スタイルに顕著な改善が見られました(p<0.0001)。

具体的な改善項目
- 「見捨てられ不安」の有意な減少
- 「親密性の回避」の有意な改善
これらの結果は、標準化された心理検査によって客観的に測定されたものです。
参加者の体験談
先ほど紹介したCさんとHさん以外にも、多くの参加者が非言語的アプローチの効果を実感しました。
Hさんは、コラージュ作成の影響について「人生の過去を歴史のように線を引き、時代ごとに振り返ることで、自分の人生を構造化することができた。より自分の人生を俯瞰して見ることができた」と報告しています。
多くの参加者が「言葉では説明できないけれど、何かが変わった」「心の奥の重いものが軽くなった感じがする」と表現しました。
(出所)前掲と同じ
非言語的アプローチの重要性
この研究により、言語レベルと非言語レベルの両方に働きかけることで、愛着スタイルの修正が効果的に行われることが科学的に実証されました。
言語獲得前に形成された問題には、非言語による方法で適切にアプローチする。これが「大人の愛着障害」改善の重要な原則なのです。
統合的アプローチの必要性
愛着障害の根本的改善には、以下の多層的なアプローチが必要です。
言語レベル(顕在意識)へのアプローチ
心理カウンセリングで、自我状態や人生脚本などの心の仕組みを理解します。「今、何が起こっているのか」「なぜこのような反応をしてしまうのか」を顕在意識レベルで把握することで、自分自身への理解を深めます。
理論的な理解は、変化への第一歩として重要です。自分の反応パターンを客観視できるようになることで、無意識の自動反応に気づく力が育ちます。
非言語レベル(潜在意識)へのアプローチ
特殊な技法により、言語化前の体験や感情にアクセスし、安全な環境で再体験することで、新しいパターンの形成を促します。
これには、コラージュ技法、身体療法、催眠技法、イメージ療法など、様々な非言語的手法があります。重要なのは、適切な技術と安全な環境のもとで行うことです。
存在レベルへのアプローチ
単なる症状の改善を超えて、その人の存在意義や生きる意味にも働きかけ、新たな生存戦略を作っていきます。
愛着の問題は、「自分は愛される価値があるのか」「世界は安全な場所なのか」「自分は何のために生まれてきたのか」といった存在論的な問いと深く関わっています。表面的な行動修正だけでなく、存在そのものへの肯定感を育むことが必要です。
26年の臨床経験からの確信
この統合的なアプローチにより、これまで3,500人以上の方が人生の好転を経験されています。言語レベルだけでも、非言語レベルだけでもなく、両方を組み合わせることで、より深く、より持続的な変化が可能になるのです。
専門的支援の重要性と安全性への配慮
専門的技術の必要性
潜在意識へのアプローチは、理論はもちろん、適切な技術と安全な環境が不可欠です。特に愛着障害の場合、幼少期のトラウマ体験にアクセスすることになるため、専門的な知識と技能を持った心理セラピストのもとで行うことが重要です。
不適切なアプローチは、かえって傷つきを深める可能性があります。専門家による適切な評価と、個別の状況に応じた手法の選択が必要です。
段階的なプロセスの重要性
まずは今回の記事のような基礎理解から始め、段階的に深いレベルのアプローチに進んでいくことが安全で効果的です。
焦って深いレベルに入ろうとせず、まずは自分の状況を正確に把握し、適切な支援を受けながら進むことが大切です。
自己流での危険性
インターネットの情報だけで潜在意識に働きかけようとするのは危険です。愛着の傷つきは非常にデリケートな問題であり、適切な評価と個別対応が必要です。
希望のメッセージ
適切なアプローチと専門的な支援があれば、愛着の問題は確実に改善可能です。言語獲得前に形成された問題であっても、諦める必要はありません。正しい理解と方法があれば、必ず道は開けます。
まとめと次のステップ
「大人の愛着障害」の改善や克服が困難な理由の1つは、「大人の愛着障害」の特殊性が十分に理解されていなかったり、「大人の愛着障害」が見過ごされてしまい、解決策として言葉を重んじるアプローチが選択されることです。
- 愛着障害は言語獲得前(0-3歳)に形成される特殊な問題。ただし「見捨てられ体験」などにより、言語獲得後でも、愛着が傷つくケースは少なからずあります。
- この特殊性が十分に理解されていないため、多くの場合、言語ベースのアプローチが選択されてしまう
- 言語獲得前の問題には、非言語的アプローチが不可欠
- 両方を組み合わせた統合的な取り組みにより、根本的改善が可能
「大人の愛着障害」の改善・克服は決して簡単な道のりではありませんが、正しい理解と適切なアプローチがあれば、確実に改善への道筋を歩むことができます。まずは今回の基礎理解を土台に、自分の現在地を把握することから始めてください。










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