
はじめに
42歳のS美さんは、中学2年生の息子の不登校が始まって半年が過ぎようとしていました。最初は「一時的なもの」と思っていたのに、息子は部屋から出てこない日が続いています。
「おはよう」と声をかけても返事がない。無理に話しかけようとすると「うるさい!」と怒鳴られる。夫は「お前の育て方が悪い」と責め、義母からは「甘やかしすぎ」と言われる毎日。
カウンセリングにも通いました。担任の先生との面談も何度も重ねました。でも息子の状況は一向に改善せず、S美さん自身も追い詰められていきます。
「私の何がいけなかったんだろう...私が母親として失格だから、息子がこんなことになってしまったの?」
実は、S美さんのような子どもの問題で悩む親御さんの多くに、ある共通した特徴があることがわかっています。それは、ご自身の「愛着障害」による行動パターンが、無意識のうちに子どもとの関係に影響を与えているということです。
本記事では、愛着障害を持つ方によく見られる6つの行動パターンについて、26年間で3,500人以上の改善を支援してきた【中野式】心理療法の視点から詳しく解説します。
愛着障害とは
愛着障害とは、幼少期の養育者との関係において安全で安心できる愛着関係を築くことができなかった結果、大人になってからも人間関係や自己肯定感に困難を抱える状態です。
これは決して「性格の問題」ではありません。適切なアプローチにより改善が可能です。
愛着障害によくある行動6選
1 人間関係で同じ失敗を繰り返す
恋愛でも友人関係でも、なぜかいつも同じところでつまずいてしまう。信頼関係を築こうとするのに、気がつくと関係が破綻している。同じような相手を選んでしまい、同じような結末を迎えてしまう。
このような人間関係のパターンは、幼少期に安全で安心できる愛着関係を経験できなかったため、健全な人間関係がどのようなものかを学ぶ機会が少なかったことが原因である可能性があります。そのため、無意識のうちに子どもの頃に見つけた関係性を繰り返してしまうのです。
2 「私なんて・・・」が止まらない
「私なんてダメな人間だ」「どうせ私には無理」といった自己否定の言葉が、頭の中でぐるぐると回り続ける。何をやってもうまくいかない気がして、自分を責め続けてしまいがち。
この慢性的な自己否定は、愛着の傷つきによって基本的な自己価値感が形成されていないことが原因です。幼少期に無条件の愛を受けた経験が乏しいため、「ありのままの自分」に価値を見出すことができません。常に何かを成し遂げなければ価値がないと感じてしまうのです。
3 距離感が分からない
人との距離感がわからず混乱してしまうことはありませんか? 昨日まで親しくしていたのに、今日は急によそよそしくなってしまったり、初対面の人にも必要以上に踏み込んでしまったり。適切な境界線を設定することができません。
これは愛着システムの混乱によるものです。人と親密になりたい気持ちと、傷つくことへの恐怖の間で常に揺れ動いています。どこまで近づいて良いのか、どこで線を引くべきなのかがわからず、結果として相手も自分も戸惑わせてしまうことになります。
4 完璧でないと許せない
少しのミスも気になって仕方がない。自分にも他人にも厳しい基準を課してしまい、完璧でないと気が済まない。「こうあるべき」「ねばならない」という思考が強く、疲れ果ててしまうことがよくあります。
この完璧主義は、愛着の不安から生まれる適応戦略です。完璧であることで愛され、受け入れられようとしているのです。
しかし、完璧な人間など存在しないため、この戦略をやり続けるのは不可能。結果として、いつか破綻し、慢性的な疲労感と挫折感を抱えることになります。
5 見捨てられ不安が強すぎる
大切な人がいなくなってしまうのではないかという不安で頭がいっぱいになることがあります。相手の些細な言動にも敏感に反応し、「もしかして嫌われたのかもしれない」と思い込んでしまう。関係が終わることを過度に恐れ、そのために相手に対して過度に依存的になったり、反対に先回りして関係を断ち切ろうとしたりします。
この見捨てられ不安は、幼少期の見捨てられ体験や不安定な愛着経験に基づいています。論理的に考えれば杞憂だとわかっていても、感情的には強い不安を感じてしまうのです。これは深層心理に刻まれた傷であり、理性だけでは解決することが困難です。
6 感情爆発で後悔
普段は我慢しているのに、ある瞬間に怒りや悲しみが爆発してしまうことがあります。感情をコントロールできずに相手を傷つけてしまい、その後で激しく後悔する。「なぜあんなことを言ってしまったのか」と自分を責め続けてしまいます。
愛着の傷つきがあると、感情を適切に調整する機能が十分に発達していません。日頃から感情を抑圧しがちで、それが限界を超えると爆発的に表出してしまうのです。その後は強い自己嫌悪に陥り、さらに自分を責める悪循環に陥ってしまいます。
あなたはいくつ当てはまりましたか?
もし複数の項目に当てはまったとしても、決して諦める必要はありません。これらの行動パターンは「愛着の傷つき」という、克服可能な状態の表れだからです。
愛着障害は克服できる
愛着障害による行動パターンは、適切なアプローチと継続的な取り組みにより、改善することができます。
【中野式】心理療法では、3つの統合的アプローチによって愛着の傷つきの根本的な改善を支援しています。まず、メンタルケアでは主に顕在意識へのアプローチにより、問題を引き起こしている思考・感情・行動の一連のパターンに気づきくことで、適切なパターンへと修正していきます。無意識の反応パターンに気づき、より健全な選択ができるようになることを目指します。
次に、トラウマケアでは愛着の傷つきそのものに直接働きかけます。安全で信頼できる治療関係の中で、過去の傷ついた体験を再体験し、癒していくプロセスです。これにより、根深い愛着の問題にアプローチすることができます。
そして、スピリチュアルケアでは、魂レベルでの癒しと成長を促します。人生の意味や目的を見つけ、より深い次元での回復を目指します。この3つのケアを統合することで、表面的な症状の改善だけでなく、根本的な変化を実現できるのです。
これまで26年間にわたり、3,500人以上の方々の愛着の傷つきからの回復を支援してきました。多くの方が健全な人間関係を築き、自己肯定感を取り戻し、本来の自分らしい人生を歩めるようになっています。
S美さんのその後
S美さんは、この記事で解説した6つの行動パターンのうち、特に「完璧でないと許せない」と「見捨てられ恐怖が強すぎる」に強く当てはまることに気づきました。
息子に対しても、「良い子でいなければ愛されない」というメッセージを無意識に送り続けていたのです。息子が少しでも期待と違う行動をとると、S美さん自身が不安になり、つい厳しく接してしまう。
そして、息子が距離を置くようになると、「見捨てられるのではないか」という恐怖から、さらに必死になって息子をコントロールしようとしていました。
【中野式】心理療法を学びながら、体験はじめたS美さんは、まず自分自身の愛着の傷つきと向き合いました。
幼少期に母親から「良い子でいなさい」と言われ続けた体験、少しでも失敗すると冷たくされた記憶。それらが今の子育てにそのまま影響していることを理解したのです。
学びはじめてから、約3ヶ月が過ぎた頃、S美さんの息子への接し方は劇的に変わりました。息子や自分自身をありのままを受け入れられるようになりました。
すると息子も少しずつ心を開き、「お母さん、学校のこと話してもいい?」と自分から話しかけてくるようになったのです。
現在、息子は週に2〜3日は学校に通えるようになり、将来の進路についても前向きに考えられるようになりました。そして何より、S美さん自身が「完璧な母親でなければいけない」という重荷から解放され、息子との関係を心から楽しめるようになったのです。
克服への第一歩
まずは現在のあなたの状態を正確に把握することから始めましょう。
大人の愛着障害を克服するためのチェックリストをご用意しています。専門的な視点から設計されたこのチェックリストにより、あなたの愛着パターンを望む方向に改善する道筋が明確になります。











