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【この記事の学術的根拠について】
インターネット上には、「愛着障害の克服方法」に関する記事が多数存在します。執筆者や監修者が医師や公認心理師であっても、学術的な根拠が明確でないものも少なくありません。「〜すれば克服できる」という主張が、どのような研究に基づいているのかを一般の方が見分けることは、とても難しいのが現状です。
本記事は、世界中の研究者が投稿し、専門家による厳格な審査を経て掲載が認められる国際医学誌に発表された研究論文に基づいて執筆されています。この論文は、米国国立衛生研究所(NIH)の文献データベース「PubMed Central」にも収録されており、世界中の研究者や医療従事者が参照できる状態になっています。
- 内的作業モデル(IWM)とは、乳幼児期に形成される対人関係の予測・制御システムである
- IWMは「心の設計図」ではなく、「心のOS」として動的に機能している
- IWMは前言語期に形成されるため、50年間「直接見る」方法がなかった
- PMC収録の最新研究により、コラージュ技法でIWMの可視化に成功した
- IWMの構成要素は「自我状態」であり、特にP-C関係が愛着の基盤となる
- IWMは外部の安全基地なしでも、内的プロセスによって変容しうる
「なぜ、いつも同じような人間関係のパターンを繰り返してしまうのだろう?」
「なぜ、頭ではわかっているのに、感情や行動が変えられないのだろう?」
もしあなたがこのような悩みを抱えているなら、その答えは「内的作業モデル(IWM)」という概念の中にあるかもしれません。
内的作業モデルは、愛着理論の中核をなす概念であり、あなたの対人関係のパターンを無意識のうちに支配しています。しかし、この概念は1970年代に提唱されてから約50年間、「正体不明」のままでした。
なぜなら、内的作業モデルは言葉を覚える前の乳幼児期に形成されるため、言葉でアクセスすることができなかったからです。
ところが近年、この50年間の謎がついに解明されました。
本記事では、PMC(米国国立衛生研究所の文献データベース)に収録された最新の研究に基づき、内的作業モデルとは何か、なぜ50年間謎だったのか、そしてどのようにして可視化に成功したのかを、わかりやすく解説します。
1. 内的作業モデル(IWM)とは何か?
ボウルビィが発見した「心の中の予測システム」
内的作業モデル(Internal Working Model: IWM)は、イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが1970年代に提唱した概念です。
ボウルビィは、乳幼児と養育者との間に形成される情緒的な絆を「愛着(アタッチメント)」と呼び、この愛着が人間の発達に決定的な影響を与えることを明らかにしました。
そして、乳幼児期の愛着体験が心の中に「内的作業モデル」として内在化され、その後の人生における対人関係のパターンを規定すると考えたのです。
IWMを構成する2つのモデル
ボウルビィによれば、内的作業モデルは次の2つの要素で構成されています。
① 愛着対象のモデル(他者のイメージ)
「この人は私が困ったときに助けてくれるだろうか?」
「この人は私を受け入れてくれるだろうか?」
このような、他者の応答性や利用可能性についての予測を生み出すモデルです。
② 自己のモデル(自分のイメージ)
「私は愛される価値があるだろうか?」「私は受け入れられる存在だろうか?」
このような、自分自身の価値や受容可能性についての信念を形成するモデルです。
この2つのモデルは相互に補完し合い、「他者は信頼できる/できない」「自分は愛される/愛されない」という基本的な世界観を形成します。
2. IWMは「心の設計図」ではない—予測・制御する動的システム
よくある誤解:静的な「設計図」
内的作業モデルは、しばしば「心の設計図」や「心の地図」「心のテンプレート」などと表現されることがあります。しかし、この表現は誤解を招きやすいものです。
設計図や地図、テンプレートは、一度作成されたら基本的に変わりません。しかし、内的作業モデルはそのような静的なものではありません。
正しい理解:「心のOS(オペレーティングシステム)」
内的作業モデルをより正確に理解するためには、「心のOS(オペレーティングシステム)」という比喩が適切です。
スマートフォンやパソコンには、iOSやWindowsといったOSが搭載されています。OSは、アプリケーション(思考や行動)の動作を背後で制御し、入力(経験)に対してどのような出力(反応)をするかを規定しています。
同様に、内的作業モデルは、対人関係における「入力」に対して、どのような「予測」を生成し、どのような「反応」を出力するかを制御しているのです。
IWMの本当の機能:予測と制御
ボウルビィは、内的作業モデルの機能について次のように述べています。
「人は現在だけを生きているわけではない。子どもの認知能力が発達するにつれて、さまざまな状況の発生を予測できるようになる」
つまり、内的作業モデルの本質的な機能は「予測」なのです。
具体的には、以下のような予測を自動的に生成しています。
- 「この人に近づいたら、受け入れてもらえるだろうか?」
- 「自分の気持ちを伝えたら、どんな反応が返ってくるだろうか?」
- 「困ったときに助けを求めたら、応じてもらえるだろうか?」
これらの予測に基づいて、私たちは無意識のうちに行動を選択しています。
3. なぜ50年間「謎」だったのか?
言葉でアクセスできない領域
内的作業モデルが50年間「謎」のままだった最大の理由は、それが「前言語期」、つまり言葉を覚える前の乳幼児期(0〜3歳頃)に形成されるからです。
この時期の記憶は、言語ではなく、身体感覚やイメージとして潜在意識に刻まれています。そのため、本人が言葉で説明することができません。
「なぜか人を信用できない」
「なぜか親密な関係が怖い」
「なぜか自分には価値がないと感じる」
このような感覚の根源を、本人が言葉で説明できないのは、内的作業モデルが言語以前に形成されているからなのです。
従来のアプローチの限界
これまで、内的作業モデルを測定・理解するための方法として、「成人愛着面接(AAI: Adult Attachment Interview)」などが開発されてきました。
AAIは、被験者の語りを詳細に分析することで、愛着スタイルを推測する方法です。しかし、これはあくまで「言葉」を分析して間接的に推測するアプローチです。
内的作業モデルそのものを「直接見る」方法は、存在しませんでした。
顕微鏡がなかった時代
この状況は、顕微鏡がなかった時代の細胞学に例えることができます。
細胞の存在は理論的には予測されていましたが、実際に「見る」ことはできませんでした。顕微鏡の発明によって初めて、細胞を直接観察することが可能になり、細胞学は飛躍的に発展しました。
同様に、内的作業モデルも理論的には存在が予測されていましたが、「見る」方法がなかったのです。
4. 50年間の謎が解明された——IWMの可視化に成功
世界初:コラージュによるIWMの可視化
2026年、PMC(米国国立衛生研究所の文献データベース)に、画期的な研究論文が収録されました。
論文タイトル: "Visualization of Internal Working Models Through Transactional Analysis (TA) Developmental Collage Therapy: A Case Report"(TA発達段階コラージュ療法による内的作業モデルの可視化:症例報告)
この研究では、「コラージュ」という非言語的な技法を用いることで、言葉ではアクセスできなかった内的作業モデルを、視覚的に外在化することに成功しました。
なぜコラージュで可視化できたのか?
コラージュ療法は、雑誌の切り抜きなどを台紙に貼り付けて作品を作る技法です。言葉を使わずに、イメージや感覚を視覚的に表現することができます。
この研究では、被験者に「自分自身と周囲の環境」を、発達段階ごとにコラージュで表現してもらいました。
具体的には、以下の6つの発達段階です。
- 誕生〜18ヶ月
- 18ヶ月〜6歳
- 7〜12歳
- 13〜18歳
- 成人期(変容前)
- 未来(変容後)
その結果、各コラージュ作品には、その発達段階における「自己のモデル」と「他者(環境)のモデル」の関係が、視覚的に表現されていたのです。
これは、ボウルビィが定義した内的作業モデル—「愛着対象のモデル」と「自己のモデル」—そのものです。
顕微鏡の発明に匹敵するインパクト
この発見は、細胞学における顕微鏡の発明に匹敵するインパクトを持っています。

これまで理論上の概念にすぎなかった内的作業モデルを、初めて「直接見る」ことが可能になったのです。
そして、内的作業モデルを可視化できるということは、その「変容」も視覚的に確認できるということを意味します。
5. IWMの構成要素が明らかになった
交流分析の「自我状態」とIWMの関係
この研究のもう一つの重要な発見は、内的作業モデルの構成要素が「自我状態」である可能性を示したことです。
「自我状態」とは、交流分析(TA: Transactional Analysis)という心理学理論で提唱された概念で、人格を構成する3つの要素を指します。
- P(Parent:親): 親や養育者から取り入れた考え方や行動パターン
- A(Adult:成人): 現実に基づいて論理的に判断する部分
- C(Child:子ども): 子ども時代から持ち続けている感情や反応パターン
この研究では、コラージュ作品に表現された内容が、愛着理論では「愛着対象のモデル」とされていたものは、交流分析理論では「親」自我状態(P)として、また、愛着理論では「自己のモデル」とされていたものは、交流分析理論では「子ども」の自我状態(C)の関係として解釈できることが示されました。
IWMの正体:内的なP-C関係
従来、愛着理論と交流分析は、別々の学問領域として研究されてきました。
しかし、この研究によって、両者を統合する新しい視点が提示されました。
具体的には、内的作業モデルの構造は、心の中における「P(親のモデル)」と「C(自己のモデル)」の関係として理解できるのです。
- 安定した愛着: 親の自我状態(P)と子どもの自我状態(C)が調和した関係を保っている状態
- 不安定な愛着: 親の自我状態(P)と子どもの自我状態(C)が葛藤し、不安定な関係にある状態
そして、認知機能の発達に伴い、「成人」の自我状態が、「親」の自我状態(P)や「子ども」の自我状態(C)とも関わるようになっていきます。
この発見により、内的作業モデルの「正体」が、より具体的に理解できるようになりました。
6. IWMは変えられるのか?
従来の考え方:「安全基地を見つければ克服できる」?
インターネット上には、「愛着障害は、安全基地を見つけることで克服できる」という記事が溢れています。信頼できるパートナーや友人を見つけること、セラピストとの関係を築くこと、「プチ甘え」を練習することなどが推奨されています。
しかし、ここには重大な論理の飛躍があります。
「安全基地を見つける」ことと、「IWM(内的作業モデル)が変容する」ことは、まったく別の話です。
さらに、「成人が安全基地を見つけることで愛着の問題を克服できる」ことを実証した先行研究は存在しません。
確かに、自己報告式の質問紙を使った縦断研究では、安定型のパートナーと交際した人の「愛着スタイル」のスコアが改善したという報告はあります。しかし、これはあくまで意識的な自己評価の変化であり、IWM(内的作業モデル)そのものが変容したことを確認したものではありません。
なぜなら、IWMが何から構成されているのか、そしてそれをどう測定するのか—この基本的な問題が、そもそも解決されていなかったからです。
「変容した」と言えるためには、「何が」「どのように」変わったのかを示す必要があります。しかし、IWMの中身がわからなければ、変化を確認することは原理的に不可能です。
学術研究が示す「4つの教訓」
愛着研究の第一人者であるFraleyとRoisman(2019)は、長期間にわたる追跡調査から得られた「4つの教訓」をまとめています。
- 教訓1:幼少期の経験と成人の愛着スタイルの関連は弱く、一貫しない
- 教訓2:愛着スタイルは成人期より子ども・青年期の方が変化しやすい
- 教訓3:幼少期の経験は成人期の結果を「決定」しない
- 教訓4:まだわかっていないことが多い
核心的な問題:IWM変容を確認する方法がなかった
そもそも、「IWMが変容した」ことを確認する方法が存在しなかったのです。
なぜでしょうか?
IWMが何から構成されているのか、誰も定義できていなかったからです。
「変容した」と言えるためには、「何が」「どのように」変わったのかを示す必要があります。しかし、IWMの中身がわからなければ、変化を確認することは原理的に不可能です。
新しい発見:内的プロセスでも変容可能
この研究で示された重要な発見の一つは、内的作業モデルの変容が「外部の愛着対象」なしでも起こりうるということです。
コラージュ作品を作成する過程で、被験者は自分自身の内的作業モデルを視覚的に認識し、現在の「A(成人)」の視点から過去の自我状態を振り返ることができました。
この「内的な対話」のプロセスを通じて、固定化していたP-C関係が変容し、より適応的なパターンへと再構成されたのです。
心のOSは「バージョンアップ」できる
先ほどの比喩を使えば、心のOS(内的作業モデル)は、「バージョンアップ」が可能だということです。
古いOSのままでは、新しいアプリ(健全な対人関係)がうまく動作しません。しかし、OSをバージョンアップすれば、これまで動かなかったアプリも快適に動くようになります。
同様に、内的作業モデルを更新することで、これまで繰り返してきた対人関係のパターンを変えることができるのです。
7. なぜ従来の心理療法では変われなかったのか?
言葉を使うアプローチの限界
多くの心理療法—特に認知行動療法(CBT)などの言語的アプローチ—は、クライエントの「認知(考え方)」を言葉で扱います。
しかし、内的作業モデルは言語以前の時期に形成されているため、言葉でアクセスすることが構造的に困難です。
「頭ではわかっているのに、感情や行動が変わらない」
このような経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。これは、言語的なアプローチが、内的作業モデルという「心のOS」のレベルにまで到達できていないからです。
非言語的アプローチの重要性
この研究が示唆しているのは、言語以前に形成された内的作業モデルにアクセスするためには、非言語的なアプローチが有効であるということです。
コラージュ療法は、言葉を介さずにイメージや感覚を表現することができるため、言語的アプローチの限界を補完することができます。
8. まとめ—IWMを理解することが、生きづらさ克服の第一歩
本記事の振り返り
ここまで、以下のことを解説してきました。
- 内的作業モデル(IWM)は、乳幼児期に形成され、対人関係を予測・制御するシステムとして機能している
- IWMは静的な「設計図」ではなく、動的な「心のOS」である
- 前言語期に形成されるため、50年間「直接見る」方法がなかった
- 最新の研究により、コラージュ技法でIWMの可視化に成功した
- IWMの構成要素は「自我状態」であり、特にP-C関係が愛着の基盤となる可能性が示された
- 外部の安全基地なしでも、内的プロセスによって変容しうる
次のステップ
もしあなたが「なぜ同じパターンを繰り返すのか」「なぜ頭ではわかっているのに変われないのか」と悩んでいるなら、その答えは内的作業モデルにあるかもしれません。
内的作業モデルを理解することは、生きづらさを克服するための第一歩です。
次の記事では、内的作業モデルの基盤となる「愛着理論」について、さらに詳しく解説します。
▶ 愛着理論をわかりやすく解説——ボウルビィが発見した「人間関係予測システム」
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- なぜポジティブ思考が効かなかったのか、その本当の理由
- あなたの心のパターンを知る方法(4つの愛着スタイルチェック)
- 【中野式】心理療法で「心の安全基地」を自分の内側に築く方法
参考文献:
Nakano, H. (2026). Visualization of Internal Working Models Through Transactional Analysis (TA) Developmental Collage Therapy: A Case Report. Cureus, 18(1), e102599.
Bowlby, J. (1973). Attachment and Loss, Vol. 2: Separation: Anxiety and Anger. Basic Books.(邦訳:J. ボウルビィ (著)・黒田実郎・岡田洋子・吉田恒子 (訳) (1991). 分離不安:母子関係の理論(愛着と喪失 第2巻) 岩崎学術出版社.)
Fraley, R. C., & Roisman, G. I. (2019). The development of adult attachment styles: Four lessons. Current Opinion in Psychology, 25, 26-30.









