不妊症の事例 公認心理師 中野日出美

不妊症で苦しんだ女性(36歳)の事例

私が扱った心理療法の実際の事例をご紹介します。

不妊症で苦しんだ亮子(仮名、36歳)さんの事例です。

ただし、クライアントさんの許可を得られた部分に限定しています。

また、クライアントさんの個人情報の保護のため、さらに一部を改編しています。

亮子さんは、大学で事務をしている聡明な女性です。

亮子さんの最初の結婚は23歳の時でした。

大学時代から交際していた同級生と結婚したものの、わずか1年で離婚し、今の夫である時雄さん(仮名)とは10年前、28歳の時に結婚しました。

亮子さんと時雄さんの結婚生活は穏やかで温かなものでした。

2人とも子ども好きで、結婚した当初は2人で

「子どもは3人がいいね」

「男の子1人と女の子2人欲しいね」

「いや、女の子3人っていうのも可愛いぞ」

などと、よく話し合ったと言います。

ところが結婚して5年経っても、念願のベイビーはなかなか亮子さんのお腹に宿ってはくれませんでした。

そこで2人は思い切って不妊治療に踏み切ることにしました。

初めのうちは「仲がいいと子どもができにくいというからね」などと周囲の人たちに言われたりして、自分でも「そういうものなのかな」などと思っていたそうです。

実際、亮子さんにも、時雄さんの方にも、これといって、妊娠しないような体の事情はなかったそうです。

「だから、私も夫も不妊治療をすれば、すぐにでも子どもが授かると思っていたところがありました」

と、亮子さんはうつむきながら話してくれました。

不妊治療は高額な上に、思った以上に痛くて、辛い治療でした。

初めのうちは、

「今度こそ、妊娠しそうな気がする」

「今月、頑張れば、こんな苦しみも終わるはずだ」

と自分に言い聞かせながら頑張っていました。

しかし、残念ながら不妊治療を始めてから2年経っても、亮子さんは妊娠しませんでした。

次第に夫も

「もう、子どもはいいんじゃないか?

2人だって幸せに生きていくことはできるのじゃないか?」

と亮子さんに言い始めました。

その当時のことを亮子さんはこう語っています。

「信じられませんでした。

私がこんなに辛い思いをして頑張っているのに、夫は何にもわかってくれていないと思いました。

何としても2人の子どもが欲しいと思っているのに、この人は簡単に諦めようとしている。

2人の心はすれ違っていると思いました」

それからまた1年、不妊治療を続けましたが、やはり赤ちゃんは授からず、仕方なく、とりあえず
不妊治療は中止することとなりました。

その頃でした。亮子さんが私の元を訪れたのは・・・

1回目のセッション

「もう、毎日が辛いというか・・・

今では夫と一緒のベッドで寝るのも苦痛なのです」

と、亮子さんはうつうつとした面持ちで語り出しました。

あんなに仲が良かったご夫婦が、今では何だかギクシャクとして、子どもを作るどころか、この人とこの先の人生を一緒に過ごしていけるだろうかと感じているようでした。

そこで最初のセッションでは、カウンセリングをじっくりした後、インナーチャイルド療法をしました。

中学2年生、小学5年生、3歳にそれぞれ退行し、インナーチャイルドたちとやりとりしました。

その後の亮子さんのご感想を以下にご紹介します。

「先生がおっしゃるとおりに、自分の中に、たくさんの小さな自分がいるのだ、と気づきました。

覚えていることや忘れていることなど、たくさん催眠に入っている間に出てきて、だんだん、自分の声や話し方が小さい子どもになってしまっているのを、どこかで大人の自分が不思議そうな気持ちで見ているような、そんな感じでした。

これが催眠というものなのか、と目が覚めた時に、ぼんやりしながら考えました。

まだ、まだ何が変わったのか、よく自分ではわかりませんが、先生が、『そのうちわかりますよ』と言ってくださったので、よかったです」

2回目のセッション

初回はインナーチャイルド療法をした亮子さんでしたが、2回目のセッションも再びインナーチャイルド療法をしました。

今度は7歳、そして出産時へと退行しました。

亮子さんは、催眠に入るのが前回よりも、とっても上手になっていました。

そのおかげで、とても深いトランスに入ることができ、その分深いセラピーになりました。

その時の亮子さんのご感想を以下にご紹介します。

「今日は、よく泣きました。

自分でもよくこんなに泣けるものだと、びっくりするほど涙が出て、止まりませんでした。

完全に私は子どもになっていました。

特に赤ん坊になってしまった時には驚きました。

赤ん坊でもお話が出来るものなのかと後で思いました。

母が赤ん坊の私をどれだけ愛してくれていたのかを実感しました。

催眠療法は素晴らしいと本当に感じました。

私の両親は、共働きだったので、私と妹は鍵っ子でした。

特に淋しいとも感じたことはなかったのに、催眠の中の私はとても淋しがっていました。

また両親も不器用な人たちだったので、あまり子どもをベタベタとかわいがれなかったことや、生活に手一杯で、現代の親御さんのように、子どもに愛情を表現する余裕がなかったということに、気づきました。

たくさんの気づきを本当にありがとうございました。」

3回目のセッション

前回までの2回のセッションは、インナーチャイルド療法でしたが、この3回目のセッションは前世心理療法をしました。

亮子さんは上手に何の抵抗もなく、前世へと入ってくださいました。

前世での亮子さんは、第二次大戦中のハンナというユダヤ人の女性でした。

ハンナの父親は銀行の頭取であり、たいへん裕福な子ども時代を過ごしました。

ところが、ナチス党が政権をとるや否や、次第にユダヤ人であるハンナたちは差別を受けるようになり、自由に町を歩けなくなりました。

そしてハンナが16歳の時、ハンナの家族である、両親、ハンナ、3歳年下の妹、5歳年下の弟は、みな強制収容所へと送られました。

以下、亮子さんの前世体験の概要とご感想の一部です。

「私はユダヤ人の少女でした。

両親も妹も弟も強制収容所のガス室で殺されました。

私たち家族は強制収容所に着いてすぐに長い列に並ばされ、働ける者と働けない者に分けられました。
両親と私は働ける者の方の列に、そして、妹と弟は働けない者の方の列に分けられました。

最初、私は妹と弟はまだ小さいから働かなくて済むのだ、ああ、良かったなと安心しました。

でも、それから何日かして、妹と弟は、あの後すぐにガス室に連行されたことを知りました。

私は母と一緒でした。

母は妹や弟のことを心配して、そして2人が殺されたことを知り、半ば半狂乱になりました。

私は、母を何とか元気にさせなくては、と思いましたが、母はすっかり衰弱し、生きる力を失ってしまいました。

そんな母はすぐに親衛隊に目をつけられ、ガス室送りとなりました。

もはや私には、父だけしかいないと思いました。

何とか生き延びて父と再会することだけが私の希望でした。

そんなある日、私はあるメンバーに選ばれました。

私を含め、若い女性ばかりのグループでした。

私たちが連れていかれた所は、病院のような、実験室のような薄暗い、匂いのきつい棟でした。

私はそこで、ナチスの人体実験のモルモットにされたのです。

私に施された実験は、赤ん坊を妊娠させて、その後、胎内の赤ん坊にいろいろな処置をして、それがどう赤ん坊に影響するかという恐ろしいものでした。

そして、結局、私の赤ん坊はさんざん実験に使われ、お腹の中で死んでしまいました。

その直後、私はガス室に送られ、殺されました。

前世を体験して、驚きました。

私が、私ではなく、まったく別の人間だったことがあるなんて、と。

それもこんなに恐ろしい体験をしていたとは・・・

今回の人生で、病院のアルコールの匂いにすごく嫌悪感を感じる理由がわかりました。

それから、子どもが欲しいと思いつつも、頭のどこかで

「妊娠してはいけない。子どもなんてできたら、大変なことになる」

というような声が聞こえていたことにも気づきました。

ハンナさんからのメッセージで、

「あなたは愛するご主人と一緒になれて幸せですよ。

私にも好きな男性がいましたが、彼も戦争で殺されました。

あなたは今のご主人を大切にしてください。

子どもがいるか、どうかなんて、どちらでも構わないことです。

2人が一緒に生きていること、それだけで本当に素晴らしいことなのですから」

と言われました。

前世心理療法が、こんなにも深いものだとは、思いませんでした。

これまで前世の本を読んだりしてきましたが、自分がこんなにリアルな体験をするとは思いませんでした。

何かが変わったような気がします。

また機会があれば、別の前世も見て見たいです。

どうもありがとうございました」

その後、亮子さんは、再びインナーチャイルド療法と前世療法を経験され、セッションを終了しました。

それから3年・・・

亮子さんは自然妊娠でかわいらしい女の子を授かりました。

亮子さんいわく・・・

「この子はハンナの妹だと思います。

もう一度、今回の人生で一緒に過ごしたいと、やって来てくれたのだと思います。

この子の目を見た瞬間、そう思いました。

大事にしてやりたいと思います」とのことです。

前世心理療法は、スピリチュアルケアを目的に、交流分析の理論に基づき、現代催眠やNLPなどの技法を応用し、独自に開発された心理療法です。

原因がよくわからない心因性の問題に対し、心の奥深く、魂のレベルでのいやしや気づきを促す効果が期待できます。

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