愛着の傷つきがいやされ、愛の泉があふれ出す─ 自己肯定の光を灯したFさんの事例

はじめに

「不安定な愛着」が「安定した愛着」へと整い、自己肯定感が高まり、自分の中に安心できる「心の安全基地」が作られていく。それは、実際には、どのような変化として起こるのでしょうか?

ここでは、【中野式】心理療法の一つであるTA発達段階コラージュ療法により、20代女性のFさん(会社員)に起きた変化を、ご本人が作ったコラージュ作品と、ご本人の言葉でお伝えします。

1.体験前 ─ Fさんに何が起きていたか

Fさんは生まれてから1歳半まで、母方の実家で曽祖母と祖父母と暮らしていました。母方の祖父は人徳のある人で、祖母は明るく面倒見のいい人だったといいます。

幼稚園時代に、父方の祖父母と同居することになりました。4歳のときに弟が生まれ、忙しい母親に代わって普段Fさんの面倒を見ていたのは、父方の祖母でした。

その祖母は心配症な人で、いつもFさんに「あれもしちゃいけない」「これもしちゃいけない」「こうなったら、こんなひどいことになる、こんな恐ろしいことになる」と話していました。

5歳くらいの頃、Fさんは吃音症を発症し、上手に言葉を発することができなくなりました。父親はFさんの話し方を注意したり、叱りつけたりしました。父親との関係は次第に悪くなり、家ではあまり口をきかなくなりました。

小学校からは「言葉の教室」で話し方を矯正するためのトレーニングを受けるようになりました。学校ではごく親しい友人以外とは話さず、Fさんの言葉によれば「吃音症であることにより、周囲からの好奇と憐れみを感じながらの子ども時代」でした。

そのころのFさんを描いたのが、作品3「個性の否定」(小学校時代)と作品4「監視」(中学・高校時代)です。

個性の否定

作品3「個性の否定」

作品3では、中央で左右に分けられた画面の左側に、Fさん自身を表す石膏像があり、その口元には吃音症を表す写真が貼られています。首には苦しみと息苦しさを表す黒い折り紙。右側の黒い背景は、言葉の教室で吃音という個性を修正するように強いられた過酷な環境を表しています。Fさんは「小学校に入学してから12歳までの自分は、周りの環境は温かかったのですが、言葉の教室が吃音を否定したような施設だったため、周りの壁ができてしまったことに気づきました」と語りました。

監視

作品4「監視」

作品4では、黒い枠(檻)の中に膝を抱えて座る自分の姿が描かれ、その周りには人間の目が散りばめられています。Fさんは中高生時代を「感情を抑えて、人とできるだけ話さないようにしていた」と振り返りました。

2.変化の瞬間 ─ 作品5「火」

大人になってからのFさんを描いた作品5「火」には、はっきりとした変化のきざしが現れています。

火

作品5「火」

画面の左側およそ3分の2は黒い背景で、その中央に涙を流す女性のイラストが置かれています。周囲には、怒りを表す赤い折り紙と、無価値感を表す紫の折り紙。Fさんによれば、これは会社で嫌なことがあると、すぐに自己否定になり、怒りや悲しみを強く感じるようになっていた自分の姿でした。

ところが画面の右側3分の1には、白い背景の上に、1本のマッチを擦った小さな灯りが描かれています。Fさんはこれを「自分の心に灯った肯定的な光」と表現しました。

そしてFさんはこう語りました。

「中高よりは壁は薄くなりましたが、暗いままでした。会社で嫌なことがあると、すぐに自己否定になり、怒りや悲しみを強く感じるようになりました。ただ、自己肯定の光を灯すことにより、暗闇が少しやわらいだような気がしていたことに気づきました

ここから、Fさんの内側で何かが動き始めました。

3.体験後 ─ 作品6「自由」

最後にFさんが作ったのが、未来を表した作品6「自由」です。

Freedom

作品6「自由」

画面の中央には、人の顔のイラスト。その周りには、宇宙のクラゲ、星、ヤシの木、ロケット、宇宙船、Fさんの大好きなキャラクターであるぐでたまくんが、自由に散りばめられています。

Fさんはこの中央のイラストについて、こう説明しました。

「中央の人の顔のイラストは、人生が変わり始めている自分、組み替えられているパズルのように組み変わっていく自分、動きがある自分を表現しました。自分の周りには、楽しいものたちが、とても自由に飛び回っている様を表現しました」

そして、ご本人の気づきとして、こう語りました。

「周りの環境もそうですが、内面も表しています。内側から外側もやさしい光や動物などに囲まれたり、穏やかになりたいというのを表しており、そうなりたいと思っていることに気づきました」

体験前の作品3・4の「壁」と「檻」、暗い背景、押さえつけられた自分。それらが、体験後の作品6では、自由に飛び回る楽しいものたちと、動きのある自分へと変わっています。

4.心理検査の数値も変化していた

Fさんは、コラージュ作品を作る前と後に、2つの心理検査を受けています。

ひとつは、自分の中の5つの心の傾向を測る検査(TEG3)。事前と事後で、自分を厳しく批判する傾向が大きく下がり(CP: 49→35)、周りに合わせて自分を抑える傾向も下がりました(AC: 50→45)。同時に、自由でのびやかな子どものような側面が少し上がりました(FC: 57→59)。

Fさん TEG3 エゴグラムの変化

もうひとつは、人との関係における不安や距離のとり方を測る検査(ECR-GO)。見捨てられる不安が下がり(54→48)、人と親密になることを避ける傾向も下がりました(51→45)

Fさん ECR-GOの変化

コラージュ作品に表れた変化と、数値の変化は、同じ方向を指していました。

5.Fさんの「愛の泉」の源泉となったものは?

ところで、暗闇の中にいたFさんが、なぜ作品5で「自己肯定の光」を灯すことができたのでしょうか。

実は、コラージュ作品を作る順番は、作品1(0〜1歳半)、作品2(1歳半〜6歳)から始まり、作品3、4、5、6へと進みます。Fさんが最初に作ったのは、生まれてから1歳半までの自分を表す作品1「あたたかさ」でした。

あたたかさ

作品1「あたたかさ」

画面いっぱいに、黄色、オレンジ、ピンクの折り紙がちぎり絵のように貼られています。Fさんはこの作品を作りながら、ご自身でも忘れていた記憶を思い出しました。

「皆に祝福されていた記憶が、体感的に、イメージ的に残っていたことに気づきました」

冒頭でお伝えしたとおり、Fさんは生まれてから1歳半まで、母方の祖父母のもとで育てられていました。人徳のある祖父と、明るく面倒見のいい祖母から受け取った「あたたかさ」が、Fさんの心の奥に残っていたのです。

続けて作った作品2「わんぱくさ」(1歳半〜6歳)では、太陽のような金色の折り紙を中心に、赤、黄色、ピンク、青、金の鮮やかな色が画面を埋め尽くしました。Fさんは「6歳までは元気いっぱいで、自分の殻に閉じこもっているということはなく、制限などない自由なコラージュになりました」と語りました。

わんぱくさ

作品2「わんぱくさ」

つまりFさんは、作品3「個性の否定」、作品4「監視」で描いたような暗闇の中にいるあいだも、心の奥には1歳半までの「あたたかさ」と、6歳までの「わんぱくさ」を持ち続けていました。それが、作品5「火」で灯った「自己肯定の光」の源だったのです。

6.誰にでも、「愛の泉」の源泉はあります

Fさんの場合、「愛の泉」の源泉となったのは、母方の祖父母から受け取った愛でした。

源泉のかたちは、人によって違います。両親かもしれない、祖父母かもしれない、ある時期に出会った先生や友人かもしれない。あるいは、まだご自身でも気づいていない、忘れてしまっている記憶の中にあるのかもしれません。

ですが、誰にでも、「愛の泉」の源泉はあるものです。

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【出典】

拙著(2021)『コラージュ技法により視覚化された人生脚本の分析と修正についての研究 ─ コラージュ療法及び交流分析からの考察 ─ 』九州産業大学大学院 博士学位論文.
Nakano, H. (2026). Visualization of Internal Working Models Through Transactional Analysis (TA) Developmental Collage Therapy: A Case Report. Cureus. (米国国立衛生研究所 PubMed Central 収録)

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